大統領府 トレンド
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2025.12.13 02:00
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◆第1章
「光るアンテナを持つ男」
初めてその男を見たのは、雪がちらつく駅前広場だった。
私はボランティアとして配給物資の整理をしていて、
その日はやけに冷たい日だった。
遠くから歩いてくる彼の姿を見た瞬間、
胸の奥がざわっと震えた。
――大統領に仕える通信参謀。
それが、彼の肩書きだった。
でも、私の目を奪ったのは制服でも銃でもない。
彼の腰に下げられた、小さく光る装置だった。
黒いケースに収まった端末は、
まるで昔のガラケーのアンテナみたいに
パッ、パッ、と淡く点滅していた。
懐かしいような、でも場違いなような光。
その違和感が、妙に心に引っかかった。
彼は配給列の前で立ち止まり、
誰かを探すみたいに周囲を見回した。
「すみません、あなたが──藤村さんですか?」
声をかけられた瞬間、
胸がドクンと跳ねた。
「は、はい。そうです…けど」
「よかった。あなたに伝令です。
大統領府の補助任務に、協力していただけませんか」
彼は丁寧に頭を下げ、
その光るアンテナをそっと手で押さえた。
「この装置が光っているのは、緊急通信が入る合図です。
詳しい内容は、ここでは話せません」
私は息を呑んだ。
戦争が始まってからずっと、
ただ流されるように毎日を過ごしていた。
でも、彼の言葉は私の中に
突然“選ばれる側”の感覚を呼び起こした。
「あの…私なんかで、本当にいいんですか?」
「あなたが必要だと言われました。
“彼女なら、言葉を守る”と」
その一言で、心が決まってしまった。
光るアンテナ。
緊急通信。
そして、“言葉を守る”という理由。
私は自分が思っている以上に、
この戦争の“中心”に引き寄せられようとしていた。
まだ何も知らないのに。
まだ引き返せるうちに引き返すべきなのに。
……でも、私はうなずいてしまった。
「分かりました。行きます」
彼の目が優しく細められた。
「ありがとうございます。
ではすぐに。通信車両が近くに来ています」
彼が歩き出す瞬間、
あのアンテナがピカッと強く光った。
私にはその光が、
これから始まる長い旅路の“点灯式”のように見えた。 December 12, 2025
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