「議員会館にて」

　翌日の午後。
　議員会館へ向かう電車の中で、私は何度も胸に手を当てていた。
　USBは今もポケットの内側に縫い付けた小袋の中にある。
　落とさないように、盗まれないように――それでも不安は消えなかった。

　駅を降り、警備ゲートを越えた瞬間、世界の空気が変わった。
　ひんやりと静まり返り、何もかもが監視されているような感覚。

　入り口付近に立っていた柏木を見つけた時、私は心底ほっとした。

「来てくれてよかった。先生なら来ると思ってました」

　柏木は以前より痩せて、目の下に疲れが色濃く刻まれていた。
　それでも声には優しさがあった。

「議員はすぐ来ます。……ただ一つだけ、覚悟しておいてください」

「覚悟？」

「政治は、正しい方が勝つ世界じゃありません」

　その言葉を胸に飲み込んだ瞬間、スーツの女性がこちらへ歩いてきた。
　落ち着いた目。凛としていて、どこか鋭さを隠さないタイプ。

「藤村秀惠さんですね。お会いできて嬉しいです。私は国会議員の 長谷川真理 と申します」

　柔らかく手を差し出され、私も握り返す。
　温かい手なのに、どこか戦いの傷痕を感じる手だった。

「詳しい話を伺う前に、一つだけお尋ねします」

　長谷川はまっすぐに私を見た。

「あなたは、この問題を“公にする覚悟”がありますか？
　生活や職場の安全は保証できません。それでも、進みますか？」

　喉がひきつり、答えが出ないまま数秒の沈黙が生まれた。
　けれど、胸に浮かんだ顔があった――未来を信じて授業を受けていた生徒たちの顔。

「……はい。逃げません」

　長谷川は深くうなずき、会議室のドアを開いた。

◆

　室内にはスタッフや調査員らしき人たちがいて、机には資料がぎっしり並べられていた。
　空気が重く、誰も雑談をしない。

「この契約書の原本が存在するはずです。このUSBを解析すれば追えます」

　私がUSBを差し出すと、長谷川の表情が一瞬だけ緩んだ。

「勇気ある決断に感謝します。今日からこの資料は我々が守ります」

　安堵で体の力が抜けそうになった、その時――

　会議室の扉が突然ノックされた。
　スタッフのひとりが顔色を変えて扉へ駆け寄り、帰ってきたときは蒼白だった。

「……与党側の議員が“教育データ問題への不審な動き”について情報を受け取ったらしく、こちらの調査の内容を知りたがっています」

　空気が凍りついた。

「圧力ですか？」と柏木が小声で問う。

「まだ“要求”の段階です。ただし……時間の問題でしょう」

　長谷川は深呼吸し、こちらを向いた。

「あなたはここから先、ただの教師ではなく“告発者”になります。守るために身辺警護もつけます」

　その提案を聞いた瞬間、胸が波立った。

「柏木さん、身元確認が取れました。……あなたについても保護要請を出します」

　そう告げられた途端、柏木の表情が沈む。
　喜びではなく、諦めに似た影。

「僕は……もういいんです。今さら守られる資格なんてない」

　そう言って席を立とうとした柏木の腕を、私は思わず掴んだ。

「逃げないで。私だけじゃ無理だよ。あなたの力が必要」

　柏木はほんの一瞬、震えるように目を伏せた。

「先生は昔から優しすぎるんです。……でも、その優しさが救う世界もある」

　それだけ言うと、柏木はそっと私の手を外し、ドアの方へ歩いた。

「待って！」と声を上げたが、追いつく前に――

　扉の向こうから、鋭い声が響いた。

「柏木誠さんですね。任意同行をお願いできますか」

　警察手帳を掲げた数人の男たちが柏木を囲んでいた。

「ちょっと待って！彼は告発者で、犯罪者じゃ――！」

　私の声を遮るように長谷川が肩に手を置いた。

「秀惠さん、止めて。あれは“逮捕”じゃなく“隔離”です。
　彼を守るための処置――敵に奪われないように」

　理解するまで数秒かかった。

　あれは――
　私のせいで、柏木が危険になったから。

　柏木が振り返り、遠くから微笑んだ。
　あの夜と同じ、寂しくて優しくて、泣きたくなる笑顔。

「先生は戦って。僕はもう大丈夫だから」

　その姿が連れて行かれるまで、私はただ拳を握りしめて見ていることしかできなかった。

　長谷川の声が背後から落ちる。

「戦いは始まったばかりです。
　覚悟を決めてください。ここから先は“失うもの”が増える世界です」

　私は息を震わせながら、それでもうなずいた。

――それでも行く。ここまで来てもう戻らない。

弱さも、涙も、迷いも抱えたまま。
それでも進むと決めたのは、他の誰でもない“私”だから。 November 11, 2025

@sandalssub4 ありがとうございます
ランナーだった頃は、これから年明けに谷川真理ハーフ、フロストバイトというスケジュールでしたが、今はこんな姿に...走れるうちに走る！も言えますよ November 11, 2025

お昼は泰斗寿司で天ざるモリンガ麺。モリンガはスーパーフードやし、この麺が弾力あって美味しいしで最高です。その後は谷川真理さんのランニング教室に！またランニングの知識が増えて嬉しいし楽しかった〜。ウェルカムパーティーまで海に癒され時間。 https://t.co/stA9YWfLAH November 11, 2025

ウェルカムパーティー。ゲストは谷川真理さんとワタリ119さんも！最後はバンド演奏に合わせて踊ったり、大勢の参加者が列になってすれ違いざまにハイタッチしてったり、お祭りのような盛り上がり。笑　1人での参加でもここでの一期一会の出会いがあってめちゃくちゃ楽しかった〜。星空も綺麗でした。 https://t.co/p14lfUicvg November 11, 2025