彫刻家 トレンド
0post
2025.12.16 13:00
:0% :0% ( - / 男性 )
人気のポスト ※表示されているRP数は特定時点のものです
私は昔からロックが好きだ。
という言い方では、まったく足りない。
だから、ロックが好きです。なんてトンマなことは言えないのだ。
思春期のある時期から、私の体の半分くらいは、
木ではなく、ギターの音とドラムの音で出来ているのではないかと疑っている。
アトリエで一人、木を彫っているときも、
レコードをかけてそのミュージシャンになり切って熱唱するし、
車を運転しながら和田弘とマヒナスターズの
『お百度こいさん』の佐々木敢一のパートを本息で歌い、
その裏声の波動で妻が気持ちが悪くなり吐くという事件も起きた。
要するに、
私はずっと、音楽に囲まれて生きてきた。
ただ一つ問題があるとすれば、
私は彫刻家になってしまった、という点だ。
⸻
ある晩、
家族が食卓に集まったときのことだ。
味噌汁の湯気が立ち上り、
子どもたちはいつものように落ち着きがなく、
妻は「今日もお互いお疲れさまでした」という顔をしている。
私は箸を置き、
できるだけ厳かな声で、こう言った。
「父さん、今まで我慢して彫刻家をしてきたが、
明日から、本当はなりたかったロックミュージシャンになろうと思う」
一瞬、静寂。
次の瞬間、
妻はトウガラシを食べたサルのような顔になり、
子どもは「なにそれ」と言った。
私はなぜか少しホッとした。
もちろん、冗談だ。
明日から本当にロックミュージシャンになるわけではない。
でも、この冗談の中には、
私の本音が、かなりの濃度で混じっている。
私がもし、
作曲の才能があり楽器の名手で魅力的な声の持ち主で、すらりとしたハンサムだったら、確実に売れていただろう。
⸻
ロックは、
「こうでなければならない」という顔をしていない。
下手でもいい。
間違えてもいい。
むしろ、少し崩れているほうが、人の心に残る。
これは、私が彫刻を続けるうえで、
何度も救われてきた感覚だ。
完璧な形より、
少しよろけた立ち方。
立派な主張より、
うっかり漏れ出た本音。
ロックは、ずっとそうやって、
私に「それでいいんだ」と言ってくれた。
⸻
この猫たちは、
ギターを弾き、
ドラムを叩き、
マイクに向かって叫んでいる。
上手そうには見えない。
でも、楽しそうだ。
必死だ。
ちょっとカッコつけている。
たぶん、私自身がそうなのだ。
彫刻家として生きながら、
心のどこかで、
ずっとアンプにコードを差し込もうとしている。
だから私は、
木ではなく、
紙の上で、
この猫たちを鳴らしてみた。
「なれなかった自分」を笑いながら、
「なりたかった自分」を、
今もちゃんと愛している証として。 December 12, 2025
11RP
今日12月16日は #北村西望 の生誕記念日(明治17年生まれ)です。
自分は天才ではないから一日でも長生きして努力する、と30代で決意した西望は、そのとおり102歳まで制作を続けました。
文化園では、平和祈念像をはじめ、西望がその手で制作した石膏原型像がたくさん。彫刻家の情熱を感じられます。 https://t.co/8sQG0bz8px December 12, 2025
1RP
<ポストの表示について>
本サイトではXの利用規約に沿ってポストを表示させていただいております。ポストの非表示を希望される方はこちらのお問い合わせフォームまでご連絡下さい。こちらのデータはAPIでも販売しております。



