吉行淳之介 トレンド
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2025.12.13 05:00
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川端康成の独特の眼差しや言葉を記録したエッセイは多いが、私が「ほんとにそこにいるみたい」と思ったのは吉行淳之介による噛み合わない会話の思い出だ。
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年の暮、ある少人数の会があって、川端さんがゲスト格で招かれていた。倭国座敷にみんな坐っていたが、ふらりと私の傍に近よると、畳の上に坐りこんで、
「ヨシユキさん、浅草の三社祭に行ったことがありますか」
「いいえ」
「来年、一緒に行きましょう」
そういう間柄ではないことだし、意味がよくわからないので黙っていると、
「わたしは、浅草のことには精しいんです」
川端さんに、浅草を舞台にした一連の小説があるのは、当然知っている。
「それは、そうでしょう」
と言って、首を傾げていると、川端さんは立上がってまたふらりと離れていった。
睡眠薬が入っていることを、感じさせた。
その三社祭が近づいたころ、突然の自殺である。
(吉行淳之介「熊」(『贋食物誌』収録、新潮文庫)
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この、「睡眠薬が入っていることを、感じさせた」が強烈で、川端康成を好きでも嫌いでもない、敬いはあるがその敬いは「内面に深入りしたい」を意味しない独特のスタンスを際立たせている。
てか、川端康成は言葉通り、吉行淳之介と三社祭に行きたかったんじゃないかな。
(吉行淳之介は女性のことを扱うと急にとんちんかんというか妙な感じになるが、男性作家について書くとつかず離れず嫌わず見下さず見上げずの筆致がとてもいいので令和のいま、別の形で再評価されてもいいと思う) December 12, 2025
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