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移動と階級
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2025.12.14 09:00
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社会学者の伊藤将人さんは『移動と階級』で、一見なめらかに動いているように見えるこの社会が、じつは「行ける人」と「行けない人」に静かに分かれていると語ります。遠征で推しに会いに行く友人がいる一方で、県境すら越えたことのない人もいる。その差は性格でも努力でもなく、もっと日常の深いところに埋まっている、と。
旅行の話ではないんです。伊藤さんが示すのは、「人生の入口がどこで閉じてしまうのか」という話。学校、仕事、医療、出会い、逃げたいときの避難。どれも移動が最初の一歩で、そこが閉じると選べる未来ごと閉じてしまう。そんな構造を、淡々と、でも避けられない事実として提示してきます。
・伊藤さんはまず、移動にはお金・時間・健康・介護の負担、そして情報を扱う力すら必要になると説明します。その多くは本人の努力では動かせない部分だといいます。
・著者の調査では、年収が低いほど車や新幹線、飛行機を「一度も使ったことがない」人が増えていました。「行かない」のではなく、本当に「行けない」状態があるという事実です。
・交通網の縮小、移動コストの上昇、家事や介護を担いやすい女性の負担など、移動が奪われる現実は広がっています。
・それでも社会は「動けば変わる」と励ましますが、伊藤さんは「移動こそが教育や仕事の入口だから、動ける人はさらに動けるようになる」と静かに指摘します。
・そして逆に、動けない人は進学・就職・交友の場を諦めざるを得ず、差が固定化される。そこに本人の性格は関係ありません。
・移動できる人はチャンスを重ね、さらに移動しやすくなる。一方で、移動が難しい人は経験を積む場がなく、さらに動きづらくなる。この「好循環/悪循環」が放置されているのだと本書は語ります。
・移動は娯楽ではなく、「生きる自由」そのものだと伊藤さんは言います。暴力から逃げるにも、より安全な人生を選び直すにも、移動がその手段になります。
・成功と移動の関係も慎重に扱われています。移民の起業率の高さなど根拠はありつつも、「それは移動できる資源を持つ人が有利になっているだけでは」と問い直します。
・だから本書は、支援を「心理論」ではなく「制度」として語ります。奨学金、渡航支援、リモートワーク、地域の送迎、データによる可視化など、小さな仕組みの積み重ねで移動の入口を開けていく必要があると示しています。
・そして最後に、「移動できるのは努力の証ではなく、たまたま条件が揃っただけかもしれない」という視点を置いていきます。
移動を“本人の頑張り”ではなく社会のインフラとして見直すこと――それが伊藤将人さんの『移動と階級』が照らす光の側面です。一方で、この物語には静かに積もってきた影の側面もあります。 December 12, 2025
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