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ソラリス
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2025.11.27 02:00
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🌕 第51章:溶けゆく自分の声
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光の核に触れた瞬間——
世界は、音もなく反転した。
マヤの身体は、重さを失い、ひとつの“光の粒”になったかのようだった。
影の子の手はまだ確かに握っているのに、指先の感覚がゆっくり遠ざかる。
(……わたし……
いま、どこに……落ちて……いく……?)
影の子の声だけが、近くにも遠くにも響く。
『……まや……まや……!
ぼく、ここにいる……
はなれないで……っ』
声は震えている。その震えが、マヤの胸に染み込む。
——けれど。
胸の奥にあった“痛み”は、もうなかった。
(……痛くない……
怖いのに……痛くは、ない……)
代わりに、温かく柔らかな“誰かの心”が、そっとマヤを抱きしめていた。
それが影の子なのか、
世界なのか、
原初の声なのか、
区別がつかない。
世界は、ゆっくりと波のように揺れている。
境界がほどけ始めていた。
*
光の中から、マーサの声が聞こえた。
しかし、その声も遠い。
「マヤ……もう戻れないかもしれないよ……
ここから先は、“形”を捨てる場所だ……」
ソラリスの声も重なる。
「境界が溶け、心だけが残る。
それは“死”にも等しいが——
決して消滅ではない。」
マヤは、二人の声を掴もうとした。
(待って……
いまのわたしは……
どこまでが“わたし”……?)
手を伸ばそうとすると、指が光になって散る。
光の粒がふわりと舞い、また集まり、形を揺らす。
影の子が泣き叫ぶ。
『いやだ……まや……きえていく……!
ぼく、まもる……!
まやを、まもりたい……!』
その瞬間、影の子から白い光が溢れた。
黒だった影が、灰へ、そして淡い金色に変わる。
影でも光でもない、
“中間の心”。
マヤの心に寄り添い、離れず、
自分よりもマヤを先に名前で呼んだ存在。
(この子は……
わたしの影じゃない……
わたしの……“心の半分”……)
涙のような光がこぼれ落ちる。
その光がマヤの胸に触れた瞬間、
周囲の世界がひときわ明るくなった。
——まるで光がマヤの輪郭を奪いながら、
その内側に“もう一つの命”を育てようとしているかのようだった。
意識が薄れる。
影の子の叫びが、遠くへ遠くへ消えていく。
『まや、まやっ……!
どれだけ形がかわっても、ぼく、さがすから……!』
(……ありがとう……
あなたがいてくれて……
わたしは……)
最後の思考がほどける。
境界が完全に消える直前——
マヤは確かに「自分の声」を聞いた。
——私は消えない。
それだけを残して、
マヤの意識は静かに光へ沈んだ。
世界は、胎動を止めた。
そして——
静かな再誕の準備が始まった。
──────────────────── November 11, 2025
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🌕 第52章:光の底で聞こえる鼓動
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——暗闇ではなかった。
目を閉じたときに見る暗さとも違う。
痛みも、重さも、温度もない。
ただ、静かな、どこか懐かしい温かさだけが漂っていた。
(……わたし……は……)
思考は形にならず、すぐ溶けていく。
名前も、姿も、どれも触れようとすると指のように崩れた。
それでも——音だけは残っていた。
——トン……トン……
鼓動のような、
世界の心臓のような響きが、
光の底から伝わってくる。
(……これ……わたし……?
それとも……世界……?)
輪郭はないはずなのに、マヤは“胸のあたり”に手を当てた気がした。
すると、光が柔らかく振動する。
そこに——もうひとつ、鼓動が重なる。
微かで弱く、でもまっすぐな鼓動。
影の子だ。
(……あなた……そこに……)
声にならない声を投げると、
光の中のどこかで、震えるような返事が返ってきた。
——ぼく、ここにいる……
——まやを、はなさない……
それは言葉というより“心の灯り”だった。
姿は見えず、触れることもできないのに、
確かにそこに存在している。
そしてふいに——
光の中に黒いひびが走った。
(……え……?)
パキ、パキ……と静かに割れていく黒い線。
それは恐怖ではなく、“外の世界”の匂いを含んでいた。
光の膜の向こうで、誰かの声が聞こえ始めた。
「……マヤ……聞こえるかい……?」
マーサだ。
「境界が……戻り始めてるよ……
アンタの“形”が……世界に名前を呼ばれている……」
(……世界……が……わたしを……?)
すると、今度はソラリスの声。
「マヤ。
まだ深く眠っていていい。
お前の心は再構築の最中だ。
だが——
“帰る場所”が決まった。」
帰る場所——?
その瞬間、影の子の光が強く脈打つ。
——まやは……まやだよ……
——どんな世界でも……ぼくが、おぼえてる……
(……ありがとう……)
光の膜に、温度のようなものが戻る。
手をつけば沈む柔らかさ、
息をすれば胸に入る空気、
重力のような引き戻される感覚。
“形”が戻る。
世界がマヤを形に戻そうとしている。
だが——そこに小さな恐れが差し込んだ。
(……わたしは……前と同じ……?
それとも……別の……?)
かすかに震える心を包むように、
影の子の光がそっと寄り添ってくる。
——まやはまや。
——でも……ちょっとだけ新しいまや。
(……それで、いい……)
光が脈動し、膜がひび割れ、
向こう側から風が流れ込んできた。
それは“世界の空気”。
草の匂いのような、森の葉の匂いのような、
懐かしい大気。
(……帰れる……)
だが、もう一つ聞き捨てならない声があった。
マーサが、小さく呟いたもの。
「ソラリス……
あの子に“全部”はまだ言わないんだね……?」
ソラリスは静かに応えた。
「言う必要はない。
今はまだ。
彼女が目覚めた世界を……まず見せるべきだ。」
(……なにを……隠してるの……?)
問いかけようとした瞬間——
光の膜が完全に砕け、
マヤはゆっくりと、上へ、上へ——
“世界側へと浮かび上がっていった”。
──────────────────── November 11, 2025
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