スティルインラブ スポーツ
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2025.12.17 04:00
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抱きしめ合った腕を解くと、夜の冷気がふわりと二人の間に入り込んだ。 けれど、互いの体温の名残は、まだ確かな熱となって肌に残っている。
「……ふふ。私、顔……ぐしゃぐしゃですね」
スティルインラブは、涙で濡れた頬を浴衣の袖で拭いながら、照れくさそうに、けれど晴れやかに微笑んだ。 その笑顔は、先ほどまでの悲痛な面影はなく、憑き物が落ちたように穏やかだった。
「そんなことないよ。……とても、綺麗さ」 「……もう。調子がいいんですから」
彼女は少し頬を膨らませてみせたが、その耳は嬉しそうに赤らんでいる。 激情の波が引いた後、部屋には少し気まずくも、甘く優しい静寂が満ちていた。
「……さて。明日も早いし、そろそろ休む支度をするか」 「あ……はい、そうですね」
俺たちは少しぎこちなく視線を逸らし合い、洗面所へと向かった。並んで歯を磨き、顔を洗う。
一通りの身支度を終え、和室に戻る。 そこには、仲居さんが敷いてくれた二つの布団が、主の帰りを待つように並んでいた。 その距離は、大人の一人分ほどしか離れていない。 改めてその光景を目にすると、先ほどまでの感動的な空気とはまた別の、どうしようもない緊張感が胸に込み上げてくる。
スティルインラブも同じことを思ったのか、布団の縁を見つめたまま、少しだけ身を硬くしていた。
「……そろそろ、電気を消しましょうか」 「そうだな。……おやすみ、スティル」
俺は努めて平静を装いながら、壁のスイッチに手を伸ばす。 パチン、という音と共に、世界が深い藍色に沈んだ。窓からは月光が入り、布団が少し照らされている。
「……おやすみなさい、トレーナーさん」
波の音だけが響く静寂の中、それぞれの布団に潜り込む。 背中を向けて横になったものの、やはり、すぐに眠れそうにはなかった。
(……俺は、さっき、とんでもないことを言ってしまったんじゃないか)
暗闇の中、天井の木目をぼんやりと見つめながら、自問自答が頭を駆け巡る。 『君といられれば幸せだ』 それは紛れもない本心だった。同時に、これはまるで告白やプロポーズの言葉ではないか。気恥ずかしくなって、現実的に考える。スティルは教え子で、俺はトレーナー。このまま行き着くところまで行き着けば、「トレセン学園トレーナーが教え子ウマ娘と同室温泉旅行!」どころの話ではない。
隣からは、静かな寝息……ではなく、衣擦れの音が微かに聞こえてくる。 彼女もまた、眠れずにいるのだろうか。 甘い香りが、潮風に乗って鼻先を掠める。意識しないようにすればするほど、五感が冴え渡り、すぐ隣に彼女がいるという事実が、熱を帯びて迫ってくるようだった。
他の事を考えて気をそらすことにする。本心といえば、また、ターフを走るスティルを見たいというのも本心だった。トゥインクルシリーズからドリームトロフィーリーグに移った彼女は、まだ走ることはできるのだ。きっと、スティルは、内なる紅はまた、鮮烈で、俺の心に深く焼き付けるような走りを俺に見せてくれるのだろう。
「……トレーナーさん」
闇に溶けるような声。 天井を見ていた俺はゆっくりと首を巡らせてスティルを見る。
息を呑んだ。
隣の布団でスティルインラブがこちらを見ていた。 彼女は布団の上に横たわったまま、乱れた髪を枕に広げ、熱っぽい瞳で愛おしそうにじっと俺を見つめている。 はだけた浴衣の胸元から、白い鎖骨が月光に妖しく浮き上がっていた。
「……どうしたんだ」
「まるで、私が走っているときにしているような表情をしているものですから。嬉しくなってしまって」
「……敵わないな。暗闇の中だっていうのに」
俺は降参するように苦笑を漏らした。 彼女の言う通りだ。俺の思考は、いつだって彼女を中心にして回っている。 『愛おしい』という感情と、『熱狂』への渇望。その二つが矛盾することなく、俺の中で渦を巻いていた。
「……ふふ。……アナタの眼差しはいつだって、ワタシを焦がすほど熱いもの」
スティルインラブは布団から白い腕をすっと伸ばし、畳の上のわずかな隙間を越えて、俺の手の甲にそっと触れた。 指先から伝わる熱は、先ほどの抱擁の時よりもずっと高く、甘く感じられた。
「……私も、私の本能と同じです。貴方にそうやって求められると……身体の奥が熱くなって、心臓が早鐘を打って……まるで、ゲートが開く瞬間みたいに」
彼女の指が、俺の指に絡まる。 その力は弱々しいのに、決して逃さないという強い意志が込められていた。
「ねえ、トレーナーさん。……確かめて、くれませんか?」
SFW illustration December 12, 2025
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