ジークフリート トレンド
0post
2025.12.18 12:00
:0% :0% ( 10代 / - )
人気のポスト ※表示されているRP数は特定時点のものです
創作小説
白銀の騎士と陽だまりの叙事詩
〜Der Silberne Ritter und das Sonnenhain-Epos〜
第一話 シトラウスの森にて(リメイク)
セフィラ大陸。 その広大な大地を二分するのは、厳格な騎士の誉れを重んじる北の盟主《アルデル連邦》と、豊かな生命と自由を謳歌する南方の文化圏の国々である。
エリスの故郷《ヴィストリア》は、その境界線に位置する南方辺境の小国だ。
晩春のリーヴェ村は、豊かな緑と土の匂いに満ちていた。ヴィストリアの北の辺境、アルデル連邦との国境沿いに位置するこの宿場村は、交易路の要衝として、旅人の熱気と、近くの森から運ばれる生命のざわめきで常に微かに満たされている。
その日もエリスはいつものように、リーヴェ村の外れにあるシトラウスの森へ、山菜を採りに出かけていた。朝露に濡れる森へ入るのは、幼少期から続くいつもの日課だ。
腰に革の小さな籠を提げ、裏手の木戸から森へと続く細い小道を踏み分ける。
足取りは慣れており、軽快に揺れるライトブラウンの髪が、木漏れ日を反射してきらめいた。
「もうすぐお父さんの好きなパンが焼ける時間だし、急がないとね」
エリスは鼻歌を歌いながら、深く呼吸をした。土と草、そしてまだ冷たい朝の空気が混ざり合った匂いが、彼女の肺を満たす。
ふと、踏み分けた茂みの奥深くから、何やら人の声のような音が聞こえてくる。
エリスは首を傾げた。村の木こりがこんな奥まで入ることは珍しい。この辺りは国境も近いため、村人はあまり踏み込まない。
彼女は警戒心を抱きながらも、薬草の生えている場所が近いことを思い出し、用心深く音のする方へ、忍び足で近づいた。
エリスは、目を見開いた。
「野盗だ!」
エリスの目に入ったのは、二人の薄汚れた野盗の姿だった。
エリスは、慌てて踵を返すが、何やら得体の知れない黒い影にぶつかり、思わず尻もちをついた。
その黒い影は、下卑た顔でエリスを見下ろす。
「ぐへへ!てめえ、女一人か! 運がいいじゃねえか、今日は!」
もう一人いたのだ。あの二人の仲間だと思わしき男は、悪寒が走るような、品性の欠片もない薄汚い声で笑う。その声に気付いた仲間の野盗達も、ぞろぞろとエリスの元に集ってくる。
三人は粗末な革鎧を纏い、錆びた剣や斧を携えている。彼らの顔つきは飢えた獣のように下卑ており、獲物を見つけた喜びで、その醜い顔がさらに歪んでいた。
「こ…来ないでください!」
エリスはとっさに籠を胸に抱き、その場に縫い付けられたように一歩退がった。彼女の手には、山菜を切るための五寸ほどの小さなナイフしか抵抗の術はなかった。
「何って、決まってんだろ! 久しぶりに可愛い獲物だ!ウヘヘヘ」
リーダー格らしき野盗が、唾を飛ばしながら下卑た笑みを浮かべ、ゆっくりと距離を詰めてくる。
逃げようと後ろを振り返るが、すでに二人の野盗に道は塞がれていた。
ヴィストリアの太陽の下で、屈託なく生きてきたエリスだったが、この時ばかりは笑顔は恐怖に凍り付き、心臓は激しく、破裂しそうなほど打ち鳴っていた。
エリスが覚悟を決め、震える手に持つナイフを構えようとした、まさにその刹那、
ヒュッ、という空気を切り裂く、乾いた音が響いた。
それは、何かが異常な速さで飛来し、目標を捉えた音だった。
野盗の一人が、突然鼻先を押さえ、そのまま大量の血を吐きながら、呻きながら地面に倒れ込んだ。彼の傍らに、小さな石ころが転がっている。正確無比に急所を打ち抜かれたのだ。
残りの二人も、何が起こったのか理解できず、立ちすくんだ。
「だ、誰だ! てめえ、どこにいやがる!」
二人が悲鳴のように叫び、声のした方向――エリスの後方の、森の奥へと武器を向けた。恐怖が彼らの獣めいた顔に色濃く滲んでいる。
茂みが分かたれ、一人の男が現れた。
その男は、全身を埃と土で薄汚れた白い外套に包み、肌は雪を思わせるほど青白く、まるで季節はずれの冬の亡霊のようだった。腰には厳重に鞘に収められた、白銀の美しい装飾が施された長剣を携えている。
彼の青みがかった、冬の湖面のような静かで透き通った瞳は、感情を一切映さず、眼前の野盗たちを見定めている。
彼の存在は、南方の豊かな森の光さえも吸い込み、周囲の温度を一瞬で数度下げたかのように感じられた。
「即刻、剣を捨てて立ち去れ」
声は低く平坦だった。怒りも、憐憫も、焦りも、正義感さえも含まれていない。ただ氷のように冷たい警告。剣を抜く前の、最後の警告。
野盗たちは、その静かな殺気に怯んだが、多勢に無勢。そして、何よりも剣士の冷静さに逆上した。
「ふざけやがって! 殺してやる!」
鼻を打たれた男は、よろよろと立ち上がり、怒号を上げ、錆びた斧を振りかざして、ジークフリートに向かって飛びかかった。 December 12, 2025
<ポストの表示について>
本サイトではXの利用規約に沿ってポストを表示させていただいております。ポストの非表示を希望される方はこちらのお問い合わせフォームまでご連絡下さい。こちらのデータはAPIでも販売しております。



