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この街で
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2025.12.06 20:00
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『ズートピア』のすごいところは
「種族だけで何かが決まるなんて偏見、努力でなりたいものになれる世界を目指すべき」
という、我々の世界でも聞くようなジュディの美しい理想が、序盤から次々と
「そんなの現実とは違う安易な綺麗事だよ」
と打ち砕かれていくところです。
「え?そこがお話のゴールじゃないんだ?」と驚かされるんですが、ではジュディが紆余曲折の末にたどり着いた「誰でも何にでもなれる」とは、どんなものだったのか?考察してみたいと思います。
(以下長文考察)
「誰にでも何にでもなれる街」なら理想が実現していると信じてズートピアに来たジュディですが、この街での経験で逆に「種族による努力では埋めがたい違いが実際にあるんだ」と感じさせられます。
ナマケモノはみんな仕事が遅いし、
シンリンオオカミは遠吠えせずにいられないし、
肉食動物だけが野生化します。
そしてそういった経験の蓄積が、ジュディにも「種族の違いでどんな動物か決まってしまうことはあって、それは個人の才能や努力でどうにもならない」という認識をもたらしていたことが、記者会見での発言で明らかになります。
結局種族による違いは本当にあって、それを認めるのは偏見ではなく事実として仕方ないことなのかもしれない。
そして理想と違う現実と自分の未熟さに打ちのめされたジュディは、警察官の夢と共に「誰もが何にでもなれる」という理想も一度は諦めてしまうのです。
その後ジュディが再び立ち上がるのは凶暴化事件解決のヒントを知ったからですが、それだけではなく
「肉食動物だから攻撃的だと思っていたギデオン・グレイは、自分の弱さを隠すためそのイメージにわざと乗っかっていただけだった」
という自分の認識と違っていた真実から、自分の理想に再び可能性を見出したからというのもあるのではないでしょうか。
種族による違いは確かにあるのかもしれないが、それが恐怖や悪意によって事実より肥大化してしまっていてジュディには正しく捉えられていなかったのかもしれません。
実際に凶暴化事件による「肉食動物は本能的に凶暴」という認識は、ズートピアの分断で利益を得るためベルウェザーによる陰謀がつくりだした幻影でした。
もし種族による違いへの認識が肥大化しているなら、その肥大化した部分だけが仕方ないと認めるべきでない「偏見」と言えるのではないでしょうか。
逆に言えば、種族による違いを認めることが必ずしも偏見とは言えないのかもしれないのです。
ジュディが確かにあると感じた「種族による違い」に事実と偏見が入り混じっているなら、現実がジュディの理想を打ち砕くほどのものだと決めるのは早いのかもしれません。
そしてジュディはズートピアで、生まれ持った種族による違いを個性の力で乗り越え自分の生き方を進む人たちにも出会っていたのです。
Mr.ビッグは小さいトガリネズミでありながら、暴力社会のトップに君臨しています。
フラッシュはナマケモノでも車に乗ればズートピア最速です。
なによりジュディ自身も、小さくて力の弱いウサギでありながら、Mr.ビッグの娘やボゴ署長、そしてニックのように彼女を警察官として評価してくれる存在を得ています。
生まれもった種族だけで決まってしまうことは確かにあるのかもしれません。
でも違う動物たちの間には共通点だってたくさんあるし、個性の力が種族の違いより大きいこともたくさんあります。
何か一つだけの要素でその「人となり」すべてが決まるとは限らないのです。(この場合「動物となり」?)
だから彼らは違いを受容し合って共存できる幸せな社会を目指せるはずですし、
その社会なら、生まれ持ったハードルが他人より高くてもそれを個性で乗り越えるという、ジュディも貫いた道を進む自由を持てるかもしれません。
それがこの物語でジュディがたどり着いた、そしてズートピアが目指す「誰でも何にでもなれる街」という理想なのではないでしょうか。
ただしそこには、
種族の違いは本当にあるのか、あるとしたら事実より極端に捉えていないか、恐怖や悪意に惑わされず正しく捉えようと互いに努力し続けなければいけない
という難しさが伴っています。
この安易な綺麗事で終わらない難しい理想は、そのまま我々の社会にも通用するものだと私は考えています。
これはあくまで私が勝手に呟いてる根拠のない感想ですし、ズートピアはあくまで架空の創作世界なので現実社会の問題を投影して考えるのはもしかしたらずれているかもしれません。
それでもこのリアルな動物都市の物語から学ぶことは沢山あるように思えるのです。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
ぜひ皆様の感想もお聞かせください。 December 12, 2025
40RP
11 エピローグ──都会の片隅の、小さな「島」
それから、ちょうど一年が経った。
春。
都会の駅前は、新入生らしき人たちであふれている。
スーツ、制服、スニーカー。
それぞれの「新しい日常」が、一斉に動き始める音がする。
雑居ビルの3階。
小さなギャラリーの前に、「写真展」と書かれた立て看板が出ていた。
タイトルは──
『魔法のアイランド』
ギャラリーの中には、あの島で撮った写真が並んでいる。
桟橋の夕暮れ、森を抜ける光、岬の星空。
島の子どもたちの笑顔と、母さんたちの忙しそうな手。
レオは、入口のところで緊張した面持ちで受付に立っていた。
「やばい、手汗止まらん」
ユウスケが隣で笑う。
「当たり前やろ、初個展やぞ。
でも、ようここまで来たな。インスタも再開して、ちゃんと“素材”じゃない写真撮って」
「お前のフォローなかったら無理やった」
「どーいたしまして。で、例の人、来そう?」
レオは、ポケットの中の貝殻ストラップをぎゅっと握りしめた。
「信じたい」
ちょうどそのとき、ギャラリーのドアがきぃ、と音を立てて開いた。
春の光の中から、見覚えのあるシルエットが現れる。
ポニーテール。
少しだけ都会っぽくなった服装。
でも、笑ったときの目じりの下がり方は、あの日のまま。
「いらっしゃいませ」
受付トーンで言おうとしたのに、声が裏返った。
「レオ」
「ナオ」
名前を呼び合うだけで、胸がいっぱいになる。
「来てくれたんだ」
「そりゃ来るよ。
『魔法のアイランド展やる』ってDM来たとき、
心臓止まるかと思ったもん」
彼女は笑いながら、壁に並ぶ写真をゆっくりと見ていく。
「うわ、ここ、あの“未来サボりスポット”やん」
「名前そのままタイトルにした」
「勝手にブランド化してる」
茶化し合いながらも、目は真剣だ。
岬の星空の写真の前で、ナオが立ち止まる。
「これ……」
「あの日のやつ。三脚立てて、必死で撮った」
写真の隅っこには、二人の小さな後ろ姿がシルエットで写っている。
「未来のタイムライン、覚えてる?」
「覚えてる。
『都会の片隅のカフェで、島の写真展が開かれてる』ってやつ」
「ここ、カフェ併設やから、ぎりセーフちゃう?」
ギャラリーの奥には、小さなカフェスペースがある。
コーヒーの匂いが、かすかに漂っていた。
「ズルい解釈」
「ストーリーテラーは解釈で戦うんです」
ナオは、ふっと笑った。
「私も、未来のタイムライン、ひとつだけ当たってた」
「なに?」
「“あの約束があるから、きっと大丈夫”ってやつ。
都会来るの、めっちゃ怖かったけど、
『いつかこの街で、レオの写真展見る』って思ったら、
どこ歩いてても道に迷わへんかった」
その言葉は、魔法みたいだった。
Magic Island のアプリは、あの日以降一度も復活していない。
でも、確かにあのとき私たちは、「こうなったらいいな」を口に出した。
それを覚えていて、今ここにいる。
それだけで、十分だった。
「ナオ」
「うん」
「これからのタイムラインは、さすがにアプリなしでやろうか」
レオがそう言うと、ナオは首をかしげる。
「どういうこと?」
「これから先の“もしも”は、
全部、自分たちで書いていきたいってこと」
「たとえば?」
少し考えてから、レオは笑った。
「たとえば──
『2年後の投稿。
写真展のあと、島のどこかに、小さなゲストハウスを作った。
観光案内と写真と、コーヒーと、恋バナがセットになった場所。
運営してるのは、島出身の元案内人と、
都会から来て島に恋した元ストーリーテラー』」
「元ストーリーテラーってなに」
「今は見習いだから」
ナオは吹き出した。
「じゃあ、私のほうのタイムラインは──」
彼女は一歩、彼に近づく。
「『2年後の投稿。
あの島で、あの人と一緒に、“ただいま”って言える場所ができた。
そこには、あの日の桟橋の写真も、岬の星空も飾られている。
魔法のアプリはないけれど、
毎日ちょっとずつ増えていくタイムラインを、
ふたりで眺めて笑っている』」
一気に言いきったあと、照れくさそうにうつむいた。
レオは、胸の奥が熱くなるのを感じながら、そっと手を伸ばした。
「その未来、見てみたいな」
「じゃあ、ちゃんと選ばんとね。今を」
ナオの手が、彼の手を握り返す。
ギャラリーの窓から見える街路樹の緑が、春の光に揺れている。
Magic Island のアイコンは、もうどこにもない。
でも、ふたりの手の温度と、壁に並ぶ写真たちが、
たしかな「今」と「これから」を描き始めている。
──ここが、私たちの新しい「魔法のアイランド」。
島の名前でも、アプリの名前でもなく。
選びつづけるふたりの時間そのものが、
若くて、不器用で、でも確かに輝いている“魔法の島”だった。
(終) December 12, 2025
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