雪風 トレンド
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2025.11.28 06:00
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大人のためのネオ童話『雪の恋人たち』
毎晩、雪が降りつづける、ひと気のない街──
雪の積もった夜の街角は、いつだって冷たく優しい。
街灯の光が粒になって雪の地面にこぼれ落ちていた。
カレは長い尻尾をコートの裾に巻きこんで歩いていた。
重い冬の夜におしつぶされそうな冷えきった体を震わせながら、街灯の光をひろい集めるようにして歩いていた。
カレは孤独に慣れすぎた猫だった。
過去を想いださせる雪が苦手だった。
雪は辛い恋を思いださせた。
雪風が急に強くなった。
雪にまじって不思議なメロディーが流れてきた。
雪の精が奏でるヴァイオリンの響きのような、魂に沁みこむ旋律だった。
淡い灰色の毛なみの美しい猫が街灯のしたで凍えた指先を息で温めながら夜空を見あげていた。
大きな耳の先がほんのり赤かった。
コートの袖から見える小さな手が雪の冷たさに震えていた。
カノジョとカレの視線が触れあったとたん、雪が言葉になった。
挨拶でもなければ、意味のある言葉でもなかった。
ただ白い言葉がカレの胸の奥を軽くしてくれた。
カレは尊敬する作家の言葉を想いだしていた。
すれちがうだけで、はじまる恋もある……
二匹の猫は口を閉ざしたまま雪のなかですれちがった。
カレはカノジョに会うために夜の街角に通うようになった。
カノジョも雪のようにふわりと同じ場所に現れた。
二匹は毎晩、つかのまの逢瀬を重ねた。
カノジョの灰色の毛なみは街灯のしたでいつも柔らかく輝いていた。
雪の白さを吸いこんで薄い光のように見えた。
どちらからともなく口を開いて、二匹の猫は夜通し話しあった。
その夜以来、二匹は逢うたびに魂の言葉を重ねあうようになっていた。
寒さに負けて白い息ばかり吐いていたある夜──
二匹は途切れとぎれの会話をつづけていた。
雪が降るたび、なぜか生き物は少しだけ優しくなるトカ。
ときとして雪は生き物に残酷な気持ちを芽生えさせるトカ……
カノジョがふとつぶやいた。
「氷のしたで眠っている魚の夢みたいな春もある……見えないけれど、たしかにそこに息づいている夢のような春……」
カノジョの言葉はカレを、夜空から舞い落ちてくる雪の重さがいちだんと増したような気にさせた。
恋の気配は、なぜか雪と似ている。
カレの胸の奥がキュンと鳴った。
カレはずっと前から、こんなふうに誰かと魂の言葉をかわしあいたいと願っていた。
恋人が亡くなって以来、カレは愛を失う日々に怯え、いつも自分から遠ざかっていた。
誰かに近づくのは怖かったが、今は眼の前にカノジョがいる。
そんなカレの迷いを彼女は見透かしているようだった。
カノジョが小さな声で言った。
「ねえ、雪は消えてしまうけれど、雪が優しいのは消えてしまうからよ」
カレは返事ができなかった。
かわりにカノジョの手をそっと握った。
カノジョの手は小さくて温かく、結ばれた二匹の猫の手のうえに雪は静かに降り積もっていった。
今夜の雪は街をすっぽり包みこんでしまいそうだった。
街灯の明かりに照らされた雪道は金色に光り、雪風が二匹の猫たちのコートの裾を揺らしていた。
突然、カノジョはカレを抱きしめた。
カレの頬にカノジョの頬がそっと触れた。
カレは世界の温度が変わった気がした。
カレは自分でも驚くほど自然に彼女の背に腕をまわしていた。
二匹の猫の体温が溶けあい、冬の風の音が遠のいた。
どこからか、あの不思議なメロディーがまた流れてきた。
カノジョが言った。
「ひとつだけ願いごとしていい?」
「なに?」
「あなたの春になりたい。そしてあなたも、わたしの春になってほしい」
カレは返事しなかった。
不安ではなく確信をたしかめるための安らかな時間だった。
「ボクもずっと誰かの春になりたいと想っていた。誰かに出逢えないまま雪ばかり降り積もって……でも今はキミがいる……」
カレはカノジョをぎゅっと抱きしめた。
「キミはボクの春だ」
カノジョの眼に涙が浮かんだ。
泣きながら笑っていた。
カレにとってカノジョの涙は雪の夜を溶かす灯りのようだった。
二匹の猫たちの体温が重なったとき、夜空の雪はまるで祝福するように舞い踊った。
白い街角で二匹の影がひとつになった。
春はもうすぐそこだった。
image:安達猫風(あだち びょうふう) November 11, 2025
ちょっと、今回のイベスト來人と雪風推しとしては最高すぎて意味がわかりません…最高場面スクショスクショスクショスクショ📷子タろ様エイトリ運営様神様ありがとうございます(スライディング土下座)
これはネタバレのないスクショ https://t.co/omDsxqXCU8 November 11, 2025
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