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2025.12.19 10:00
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東京地裁令7.6.5:渡航制限下の外国人材の合意退職に関する裁判例(楽天モバイル事件)
【裁判例要約】
携帯電話会社(被告)に採用されたインド国籍の従業員(原告)が、コロナ禍の渡航制限により倭国に入国できず、一時的にインドの関連会社でリモートワークを行っていた。渡航制限解除後、会社は倭国への入国・勤務開始(8月15日)を求めたが、従業員は母の病気を理由にこれを断り、「無期限にインドに留まり、インドの関連会社に異動したい」と申し出た。その後、従業員は「会社から解雇された」と主張し、地位確認や未払賃金を求めて提訴した事案。
裁判所は、従業員の請求を全面的に棄却し、労働契約は合意解約により終了したと判断した。
・判断の理由:
合意解約の認定:
1. 会社からのメール(本件被告メール〔2〕)は、「予定通り倭国で勤務を開始するか、オファーを辞退するか」の二者択一を迫るものであり、これは「合意解約の申込み」にあたると解釈した。
2. これに対し、従業員が「インドに無期限に留まり、関連会社に異動したい」と返信したこと(本件原告メール〔2〕)は、倭国での勤務(=労働契約の本旨)を拒否するものであり、実質的に「労働契約を終了させる(辞退する)」という会社の申込みを承諾する意思表示であると認定した。
3. その後の従業員の行動(入国手続きを止めたこと、関連会社への異動手続きを進めたこと等)も、契約終了の認識を裏付けるものであるとした。
結論: 当事者間のメールのやり取りにより、労働契約を終了させる旨の合意解約が成立したと判断。したがって、解雇の有効性を判断するまでもなく、従業員の地位確認請求等は認められないとした。
【コメント】
本件は、海外人材の採用やリモートワークといった現代的な課題において、メール等のやり取りによる「合意解約」の成立が認められた、使用者側にとって非常に参考になる判決です(私の知る限りこのような理論構成で合意解約を導いた裁判例は無かったはず)。
1. 「二者択一」の提示による合意解約の誘導:
本判決が示す最大のポイントは、会社が「契約通り勤務するか、辞退するか」という明確な二者択一を提示し、それに対して従業員が契約通りの勤務を拒否する回答をした場合、それが「辞退(合意解約)の承諾」と法的に評価されうるということです。解雇という一方的な通告ではなく、あくまで「選択肢の提示」という形をとったことが、紛争リスクを低減させる上で極めて有効に機能しました。
2. メール等の「文脈」が契約終了の決め手:
「退職届」や「合意書」といった正式な書面がなくても、メールやチャットのやり取りの文脈(コンテクスト)から、当事者の「契約を終了させる意思」が合致したと認定される場合があります。本件では、従業員が「インドに残りたい」と述べたことが、文脈上「倭国での雇用契約を終了させる」という意味を持つと解釈されました。実務上、退職に関するやり取りは記録に残る形(メール等)で行い、その意味合いを明確にしておくことが重要です。
3. 「一時的な措置」と「本契約」の区別:
会社側が、コロナ禍の特例措置(インドでのリモートワーク)と、本来の労働契約(倭国での勤務)を明確に区別し、「倭国での勤務」こそが契約の本質であるという姿勢を崩さなかったことが勝因です。もし、なし崩し的にインドでの勤務を長期容認していれば、「勤務地限定の合意が変更された」とみなされ、倭国への呼び寄せ拒否が不当とされるリスクもありました。
結論として、本判決は、採用内定者や未入国者とのトラブルにおいて、①契約の本質的要素(勤務地、開始時期)を明確にし、②それを履行できない場合の選択肢(解約)を提示して合意を形成するというプロセスが、法的リスク管理として極めて有効であることを示しています。解雇に踏み切る前に、まずは「合意による解決」を模索する姿勢が、結果として会社を守ることにつながります。 December 12, 2025
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