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2025.12.18 21:00
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東京地裁令7.6.13:中途採用の試用期間解雇と能力不足に関する裁判例
【裁判例要約】
富裕層向けのコンサルティング会社(被告)に、年俸1000万円という高待遇で中途採用された従業員(原告)が、入社から約3か月後の試用期間満了直後に本採用を拒否され解雇された。
会社側は、解雇の理由として、①採用の条件としていた「富裕層の人脈」を実際には持っていなかった(経歴詐称に近い)、②営業成績が皆無に等しく能力不足である、③顧客情報の漏洩など不適切な行動があった、などを主張した。元従業員は、解雇は不当であるとして、地位確認と未払賃金(バックペイ)等を求めて提訴した事案。
裁判所は、従業員の主張を一部認め、解雇は無効であると判断した。
判断の理由:
「人脈」の条件性について: 会社側は「富裕層の人脈を持っていること」が採用の必須条件だったと主張したが、裁判所は、採用面接において具体的な人脈の有無や深さを十分に確認していなかったことなどから、それが契約上の必須条件(職務適格性の要件)であったとは認められないとした。したがって、人脈がなかったことを理由とする解雇は不合理であると判断した。
能力不足について: 従業員が短期間で目に見える成果(契約獲得)を上げられなかったことは事実だが、特殊な事業内容や営業の難易度を考慮すれば、わずか3か月で「不適格」と断定するのは早計であるとした。また、会社側からの指導も具体的でなかったとして、解雇を正当化するほどの能力不足とはいえないと判断した。
結論: 解雇には客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当でもないため、権利濫用にあたり無効であると結論付けた。
賃金について: 解雇が無効であるため、会社には解雇後の賃金支払義務があるとした。ただし、賃金額については、従業員の主張する月額約83万円ではなく、会社側の主張する月額約66万円が合意された額であると認定した。
【コメント】
本件は、高額な報酬で即戦力を期待して採用した中途採用者が、期待通りのパフォーマンスを発揮できなかった場合の「試用期間解雇」の難しさを浮き彫りにした、使用者側にとって厳しい判決です。
採用時の「期待」を「契約条件」に落とし込む重要性:
会社側が敗訴した最大の要因は、採用の決め手としたはずの「富裕層の人脈」について、雇用契約書や採用通知書に具体的な条件として明記していなかった(あるいは面接で十分に確認していなかった)点にあります。裁判所は、「期待していた」だけでは解雇理由にならないと判断しました。特定のスキルや人脈を必須とするならば、それを「職務定義書(ジョブディスクリプション)」等で明確に定義し、合意しておくことが不可欠です。
試用期間は「お試し期間」ではない:
多くの企業が誤解していますが、試用期間であっても、解雇(本採用拒否)には正社員の解雇に近いレベルの「客観的で合理的な理由」が求められます。特に中途採用の場合、「短期間で成果が出ない」という理由だけでは、能力不足の証明として不十分とされることが多いです。具体的な目標設定、定期的なフィードバック、改善指導の記録など、プロセスを尽くさなければ、解雇は認められません。
高額年俸者のリスク管理:
年俸1000万円クラスの従業員であっても、解雇が無効となれば、働いていない期間の賃金(バックペイ)を満額支払わなければなりません。本件でも、会社は解雇後の賃金として数百万円単位の支払いを命じられています。高給取りを採用する際のリスクヘッジとして、試用期間中の目標設定をより厳格に行う、あるいは有期雇用契約からスタートするなどの契約設計を検討すべきでした。
結論として、本判決は、「期待外れだった」という主観的な評価だけでは、試用期間中の解雇であっても認められないという厳しい現実を示しています。採用時の条件設定(期待値の明確化)と、入社後の適切な目標管理・指導プロセスこそが、ミスマッチによる労務リスクを防ぐ唯一の手段です。 December 12, 2025
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